最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)5050号 決定 1955年11月01日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人吉永多賀誠、同島田徳郎の上告趣意第一点について。
所論は、本件公訴の提起はいわゆる二重起訴であると、前提し違憲を主張するけれども、本件記録によれば、第一次の公訴提起は昭和二四年七月二五日私文書偽造行使詐欺被告事件として東京地方裁判所に対して行われたが、その起訴状謄本が、公訴提起の日から二箇月以内に、被告人に送達されなかったため、同裁判所は同年一〇月二八日附で検察官に対してその失効通知をなし、別段公訴棄却の裁判はこれをなさなかったところ、その後同年一二月一五日同一罪名で同一裁判所に第二次公訴の提起がなされたものであること明らかである。従って当時としては昭和二八年法律第一七二号刑事訴訟法の一部を改正する法律により追加された同法三三九条一項一号の規定及びこれに対応する同年最高裁判所規則第二一号刑事訴訟規則の一部を改正する規則により新設された規則二一九条の二の規定等は存在していなかったこと勿論であるところ、右改正前においては、起訴状の謄本が公訴の提起があった日から二箇月以内に被告人に、送達されなかった場合には当然公訴提起は公訴提起の時にさかのぼってその効力を失うか、或は所論の如く公訴棄却の裁判をまって初めて遡及的に効力を失うかについては、当然失効するものとなす原審の見解を以て、当時の法規に適合する正当な見解であると認むべきであるから、前記第一次の公訴提起は当然遡及的に効力を失ったものであり、その後の第二次公訴の提起はいわゆる二重起訴に当らないこと明らかである。故に所論違憲の主張はその前提を欠くものであって、上告適法の理由に当らない。
同第二点について。
所論は、判例違反を主張するけれども、前段説示の通り本件における第一次の公訴提起は当然遡及的に失効したもの、即ちその公訴提起による訴訟係属は実質的にも形式的にも存在しなくなったものであるから、その後第二次の公訴提起があっても被告人を二重の危険に曝すことはあり得ないわけである。所論引用の判例は二重危険の意義を述べたものにすぎず、もとより本件に適切でなく、所論はその前提を欠き上告適法の理由とならない。
同第三点について。
所論は単なる法令違反の主張であって、上告適法の理由とならない。(なお、上述の通り本件における第一次の公訴提起は既に遡及的に効力を失い、もはや存在しないのであるから、所論の改正法律附則第三項の規定を適用すべき客体がない。)
また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 本村善太郎 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)